辰砂一輪挿 藤平伸

幅７cm ×７ｃｍ 　高さ２０ｃｍ

藤平寧様との対談

藤平伸様による「辰砂一輪挿」は、単純な器物を超えて芸術品としての物語性と詩的な美しさを備えた作品です。この一輪挿は、小ぶりながらも圧倒的な存在感を放ち、その造形や釉薬の色彩には作家の独創性と感性が余すところなく注ぎ込まれています。見る者に童話の一場面を思わせるような幻想的な印象を与え、その温かさや優しさに心が包まれる、まさに「抒情詩のような美」が宿る逸品です。

幻想的な世界を作り出す淡い青の辰砂釉

この作品の最大の特徴は、藤平様独自の辰砂釉が生み出す淡い青の色彩です。通常、辰砂釉といえば明るい赤色が主流ですが、この一輪挿では青みを帯びた柔らかな色合いで全体を包み込んでいます。この青色は、光の当たり方や角度によって微妙に変化し、時に透明感を伴って浮かび上がるように見えます。その結果、夢の中で見たかのような、ぼんやりとした幻想的な雰囲気が生まれ、観る者の心に深い印象を与えます。この色彩の選択と実現には、藤平様の熟練した技術と、釉薬に対する深い理解が欠かせません。そして、何よりも芸術的感性が結実しているのです。

淡い青の辰砂釉は、単なる装飾ではなく、作品全体に物語性をもたらしています。小ぶりな器が持つ詩情と、この柔らかな青が織りなす光景は、童話の中の一場面を切り取ったような、あるいは遥か昔に忘れ去られた記憶を呼び覚ますかのようです。この一輪挿が放つ独特の空気感は、藤平伸様の「陶の詩人」としての感性がいかに深いものであったかを物語っています。

小ぶりな器に凝縮された物語性と抒情性

「辰砂一輪挿」のサイズは控えめでありながら、その中には豊かな物語性が詰まっています。その小ささは、あたかも身近な自然の一部を切り取って閉じ込めたかのようです。この一輪挿を手にすると、触れた瞬間に感じる温もりや優しさが、器そのものに宿る詩的な表情を際立たせます。

さらに、一輪挿という形式自体が物語を感じさせる仕掛けとなっています。花を一輪挿したとき、この小さな器と花との対話が生まれ、まるで静かに語りかけてくるような印象を受けます。このように、使い手と作品との間に深い関係性を築ける点は、藤平様がいかにして作品に生命を吹き込んでいるかを象徴しています。

優しさと詩情あふれるフォルム

この一輪挿の形状は、見る者の心を和らげる優しさに満ちています。手捻りによる柔らかなフォルムは、完璧な対称性を追求するのではなく、自然な揺らぎや有機的な形を尊重しています。そのため、見る者や手に取る者に対して穏やかな親近感を抱かせます。特に注目すべきは、フォルムが持つ包容力です。この小さな器の中に、多くの感情や風景が宿るように感じられるのは、藤平様が単なる器物ではなく、詩的な情景を表現することを意識しているからです。この一輪挿に込められた「包容力のある優しさ」は、他の作家が容易に真似できるものではありません。

自由で独創的な精神

藤平伸様の作風には、常に自然体でありながら独創的な精神が息づいています。轆轤をほとんど使用せず、手捻りやタタラ成形といった手法を駆使する彼の作品は、素材そのものの美しさを引き出しつつも、見る者を驚かせる新しい表現を追求しています。藤平様が持つ遊び心や洒脱さも感じられます。例えば、その釉薬の独特な色合いや有機的な形状は、単に美術的な価値を追求するだけでなく、使い手や見る者に微笑みや感動をもたらす仕掛けとなっています。この遊び心は、陶芸の中で詩的な世界を表現するうえで重要な要素となっています。本作は、小さな器の中に大きな物語性と抒情性を秘めた作品です。その淡い青色の辰砂釉、優しいフォルム、そして圧倒的な存在感は、藤平伸様の陶芸哲学と感性が凝縮された成果と言えるでしょう。この一輪挿を眺めていると、追求した「陶の詩人」としての境地が手に取るように感じられます。一輪挿という日常的な器を超え、芸術作品として空間を彩り、見る者の感性を揺さぶるこの作品は、現代陶芸における傑作として輝き続けることでしょう。

藤平伸様 来歴
1944 京都高等工芸学校に入学 病気のため中途退学
1945 藤平陶芸にて作陶
1957 第13回　日展にて特選・北斗賞受賞
1960 イタリア・フィレンツェ国際陶芸展
1963 第6回新日展にて菊花賞受賞 京都府文化功労賞受賞
1968 現代陶芸の新世代展 陶芸の現在－京都から展
1970 現代の陶芸ヨーロッパと日本展
1973 日本陶磁協会賞受賞
1974 中南米巡回展
1976 東独巡回日本陶磁名品展
1978 西ドイツ巡回日本陶磁名品展
1982 アメリカ・カナダ巡回展
1983 現代日本の工芸展
1985 現代日本美術の展望展
1990 京都美術文化大賞受賞
1991 京都市文化功労賞受賞

「本作品は未使用の新作です。現在、藤平伸記念館で保管されています。ご購入の際はご子息である藤平寧様が真作の証明として共箱を制作いたします」