夜影 藤平寧

幅１９cm ×７ｃｍ 　高さ１５ｃｍ 

藤平寧様との対談

藤平寧様の「夜影」は、夜の静寂と闇に輝く光の美しさを、一つの器に閉じ込めた詩的な作品です。漆黒のキャンバスに描かれたような深い黒、そしてそこに微かに浮かぶ月明かりや星の煌めきを想起させる釉薬の表現が、鑑賞者を夜の世界へと誘います。

夜の静けさを映す漆黒の美

「夜影」は、その名前の通り、夜の影を映し取ったような深い黒が特徴的です。この漆黒の表面には、まるで霞んだ絵筆で描かれた月明かりが、ほのかに浮かび上がりそうです。光の当たり方によって現れる微妙な光沢は、星々が夜空に散りばめられた情景を彷彿とさせ、見る者に静かな感動を与えます。また、釉薬の独特な質感が、夜の湿った空気感や風のささやきを表現し、器の中に夜の一瞬の美を閉じ込めたかのようです。その佇まいは、自然の中にある静謐な情景を思い起こさせ、心を穏やかにしてくれます。

影と光の調和が生む幻想的な世界

作品に触れると、影の深さとその中に潜む光の調和が、手に取る者を不思議な感覚に包みます。滑らかな曲線を描くフォルムは、月の光に照らされた地面のようであり、その上に描かれた微細な模様は、木々の葉が落とす影や、静かな夜の風景を物語っています。「夜影」の釉薬が生み出す深みのある色合いは、時間や角度によって異なる表情を見せます。漆黒の中にほんのりと浮かぶ青や銀の輝きは、夜空に浮かぶ星の光や遠い街灯のきらめきを想起させ、鑑賞するたびに新たな発見をもたらします。

夜の詩情を感じさせるフォルム

手捻りで作られた「夜影」の形状は、自然の中で生まれる陰影をそのまま写し取ったかのような有機的なフォルムを持っています。その柔らかな膨らみと曲線は、まるで夜空の静けさを感じさせるようです。滑らかで手に馴染むその形は、使用する人の感覚を優しく刺激し、器としての実用性を保ちながら、装飾的な芸術作品としても存在感を放ちます。まるで夜の影がそのまま形になったようなこの作品は、静かな空間にも強い印象を与えることでしょう。

自然の中に宿る美と時間の流れ

「夜影」の魅力は、自然が持つ美しさを切り取って花器に閉じ込めた点にあります。その漆黒の深さは、夜の静寂と神秘を感じさせ、一瞬の情景を永遠に形にしたようです。時を経るごとに表面に現れる微妙な変化や深みは、使い手の生活の中でさらに育まれていきます。それは、夜という儚い一瞬を愛おしむように、花器が持つ物語をさらに豊かにしていくのです。

夜の美しさを日常に取り入れる

藤平寧様の「夜影」は、夜がもつ詩情と神秘を花器の中に込めた一品です。日常の中でこの作品を手にすると、夜空を見上げたときに感じる心の静けさを思い起こさせてくれるでしょう。その漆黒の美しさと、影と光が織りなす幻想的な世界は、空間を彩り、私たちの感覚を研ぎ澄ませます。「夜影」は、日常の片隅に特別なひとときを生み出す、藤平寧ならではの作品です。夜の静けさと温かさを感じながら、この器を通じて豊かな時間をお楽しみください。

≪藤平寧　陶歴≫
1963　京都府に生れる　父は藤平伸
1988　京都府立陶工職業訓練校を修了　日展入選（以後2回）
1989　京展 あかね賞（‘90 市長賞）　日本陶芸展 入選
1990　現代朝日クラフト展入選（以後4回）
1991　陶芸ビエンナーレ 奨励賞　全関西美術展 佳作（’92 同賞）
1992　京都工芸ビエンナーレ 入選　朝日陶芸展 入選
1993　全関西美術展 関西賞第二席
2008　パラミタ陶芸大賞展 出品