練込青瓷星誕蓋置 諏訪蘇山
練込青瓷星誕蓋置 諏訪蘇山
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幅 : 6.1cm 高さ : 6.4cm
「練込青瓷星誕蓋置」は、宇宙に星が生まれる神秘的瞬間を、陶土の層と釉の光に託して造形した、極めて詩的かつ技巧的な作品です。本作は、四代 諏訪蘇山様による「練込青瓷」シリーズの中でも、宇宙と人の精神世界をつなぐ象徴的な存在といえるでしょう。
星が生まれる時、宇宙空間の中では水素ガスや塵が収束し、やがて自ら光を放つ恒星となります。その誕生の際、望遠鏡を通して観測されるのは、淡い紅や桃色の光をまとった星雲の輝きです。蘇山様は、この瞬間の色彩を「紅磁」で表し、宇宙の冷静な無音の深淵を「青磁・藍磁」で受け止め、そこに人間の営みを象徴する「白磁」を加え、四色の磁土を練込むことで、一碗の中に天体の詩を結晶化させました。
技法――四色磁土による「練込」の宇宙
本作は、白磁・青磁・藍磁・紅磁の四色の磁土を重ね合わせ、轆轤成形によって一体化させる「練込」技法で制作されています。この技法は、各磁土の物性や収縮率を精緻に調整しなければならず、極めて高い技術力と素材への深い理解が必要とされます。
成形の際、轆轤の回転と手の力加減により、磁土の層が螺旋状に歪曲し、偶然性と制御がせめぎあう造形的ドリフトが生まれます。まさにそれは、宇宙の重力と星雲の渦とが対話するような時間であり、作為を超えた美が現出する瞬間です。
釉薬は透明釉が施され、磁土の層がぼんやりと溶け込むように浮かび上がります。光の角度により紅磁が強く主張したり、藍磁がひっそりと底光りしたりと、天体観測のように色彩が日々異なる表情を見せるのも、本作の魅力のひとつです。
造形と使用――蓋置という「茶室の星」
蓋置とは、茶道において柄杓や茶釜の蓋を支えるための道具ですが、それは単なる補助具ではなく、茶席における「間」を演出する存在です。
本作のような円筒形の蓋置は、極めて端正で現代的な佇まいを持ちます。見込みから底部まで、一直線に垂直性を保った姿は、茶の湯の所作の中に一点の緊張をもたらしつつ、同時に磁土のうねりによってどこか有機的な流動感を伴っています。
棚に飾られたときはまるで惑星が宙に浮かんでいるかのような浮遊感を与え、建水に仕込まれたときにはその小宇宙が茶室にひっそりと現出する。点前中に柄杓を構えた際、そこに置かれた本作の静けさは、宇宙の時間と茶室の時間とを交錯させる接点ともなります。
色彩と象徴――星雲のピンク、空の青
本作における色彩の構成は、単なる美的追求ではありません。それは、星雲の赤、銀河の青、夜空の白、宇宙の影を表現する象徴的な構造です。
紅磁の淡いピンクは、星誕生の瞬間に放たれる水素発光の可視光線を意識したものであり、その周囲を囲む青磁と藍磁の帯は、宇宙空間の静寂と深淵をあらわします。白磁は、そうした景色の中に佇む人間の眼差し、あるいは観測者としての存在を象徴しているかのようです。
こうした色彩の交差と混じり合いは、現代青磁における最先端の美的実験であると同時に、茶道具の文脈においては季節感や象徴性といった日本的感性とも深く結びついています。
制作と思想――四代 諏訪蘇山様の宇宙観
四代 諏訪蘇山様(1970年京都市生まれ)は、初代から三代にわたる青磁復興の精神を受け継ぎながらも、現代的な造形哲学と宇宙的スケールの詩想を融合させた作品を数多く制作されています。
特に本作のような練込シリーズにおいては、単なる伝統の再現ではなく、人間と宇宙、道具と自然の関係性を再構築する哲学的な姿勢が見られます。
その作品群に共通するのは、「器に宿るべきは物語であり、静かに語りかけてくる存在である」という母・十二代 中村宗哲様の教えを基軸にした作品観と精神性です。
結語――茶の湯と宇宙の接点に
「練込青瓷星誕蓋置」は、茶の湯という密やかな美の空間に、宇宙創生の詩的ビジョンを持ち込む希有な作品です。
それは蓋置でありながら、ただの道具に留まらず、茶室という限られた場において宇宙の広がりを垣間見せる扉となります。
掌に収まる小さな磁器に、星の誕生という壮大なスケールを映し込む――その行為は、陶芸が持つ本質的な力、すなわち「世界の本質を静かにすくい取る器」であるということを、私たちに改めて思い出させてくれるのです。
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