辰砂盃 藤平伸

幅６.５cm ×６.５cm　 高さ６ｃｍ

藤平寧様との対談

藤平伸様による「辰砂盃」は、日常の中に美と詩情を持ち込む特別な器として、見る者の心を捉えます。この盃は、手のひらに収まる小さな器でありながら、藤平様が持つ自由で独創的な精神が凝縮されています。深みのある辰砂釉の美しさと、盃そのものが醸し出す温もりや包容力が調和し、静かな存在感を放つ逸品です。

辰砂釉が生み出す深い赤と透明感

「辰砂盃」の最大の特徴は、藤平様が丹念に調整した辰砂釉が織りなす色彩の美しさです。この釉薬は、見る角度や光の当たり方によって多彩な表情を見せ、深い赤から仄かな紫がかった色まで、変化に富んだグラデーションを作り出します。

辰砂釉は制作が非常に難しい釉薬であり、窯の温度や酸化還元の調整が少しでも狂うと、意図した色彩を得ることは困難です。しかし、藤平様の「辰砂盃」では、その難しさを超えた独自の美が実現されています。釉薬の中には、光を吸収しつつも反射する微妙な質感があり、その透明感は器に命を吹き込むかのようです。この赤の深みと輝きは、まさに藤平の卓越した技術と感性の結晶と言えます。

手のひらで感じる詩的な温もり

「辰砂盃」の形状は、藤平の特徴的な手捻り技法によって生み出されたもので、完璧な円形を求めるのではなく、自然な揺らぎや有機的なフォルムが特徴です。この微妙な不均一さが、作品に人間味を与え、手に取る人に温もりを感じさせます。

盃という形式自体が、直接手で触れることでその魅力を一層引き立てます。小さな器でありながら、口元や底部に至るまで計算された滑らかな曲線は、手触りの良さと美的満足感を両立しています。この盃を通じて単なる器物を超えた「詩的な温もり」を届けようとしています。盃を持つだけで、彼が器に込めた精神や遊び心に触れることができるでしょう。

日常を彩る小さな芸術品

「辰砂盃」は、日常的な盃としての機能を持ちながらも、単なる道具としてではなく、小さな芸術品として空間に特別な価値をもたらします。酒を注ぐことで、この盃の釉薬が持つ色彩の変化を楽しむことができ、まるで盃そのものが生命を持っているかのように感じられます。

また、使用しないときでも、そのまま飾っておくだけで空間に静かな存在感を放ちます。この盃が持つ「詩的な佇まい」は、ただの器を超えた芸術性の証と言えるでしょう。

藤平伸様の遊び心と陶芸哲学

藤平伸様の陶芸は、常に「遊び心」と「詩情」が融合したものでした。「辰砂盃」にもその精神が色濃く表れています。轆轤を使わず、手作業で成形されたこの盃は、完全な形状を求める現代的な美意識に対して、自然体の美しさを提示しています。陶芸が「器」という実用性を持ちながらも、見る者や使う者に詩的な感動を与えるべきだと考えていました。その哲学が、この小さな盃にも余すところなく反映されています。

また、辰砂釉という伝統的な釉薬を使いながらも、現代的な色彩表現を取り入れた点にも注目すべきです。この作品は、藤平様が陶芸における伝統と革新をどのように融合させたかを象徴するものとなっています。その小さなサイズに対して驚くべき物語性と詩情を宿した作品です。深い辰砂釉の色彩、手に馴染むフォルム、そして使い手の感覚を豊かにする存在感は、この盃が単なる器物ではなく芸術作品として評価される理由です。藤平伸様が追求した「陶の詩人」としての境地は、この盃を通じて鮮明に感じられます。手に取ったときに伝わる温もりや、盃を飾ることで空間が醸し出す静かな感動は、陶芸という手段を通じて生み出した詩的な世界の一部と言えるでしょう。

藤平伸様 来歴
1944 京都高等工芸学校に入学 病気のため中途退学
1945 藤平陶芸にて作陶
1957 第13回　日展にて特選・北斗賞受賞
1960 イタリア・フィレンツェ国際陶芸展
1963 第6回新日展にて菊花賞受賞 京都府文化功労賞受賞
1968 現代陶芸の新世代展 陶芸の現在－京都から展
1970 現代の陶芸ヨーロッパと日本展
1973 日本陶磁協会賞受賞
1974 中南米巡回展
1976 東独巡回日本陶磁名品展
1978 西ドイツ巡回日本陶磁名品展
1982 アメリカ・カナダ巡回展
1983 現代日本の工芸展
1985 現代日本美術の展望展
1990 京都美術文化大賞受賞
1991 京都市文化功労賞受賞

「本作品は未使用の新作です。現在、藤平伸記念館で保管されています。ご購入の際はご子息である藤平寧様が真作の証明として共箱を制作いたします」