辰砂茶盌１　 藤平伸

幅１４cm ×１４ｃｍ   高さ１０ｃｍ

藤平寧様との対談

包容力のある丸みを帯びたフォルム

藤平伸様の「辰砂茶盌」は、見る者を惹きつける丸みを帯びた包容力のある姿が特徴的です。この大ぶりでどっしりとしたフォルムは、手に持つと自然と両手で包み込みたくなるような安心感を与えます。その姿は、まるで使う人の心を優しく抱きしめるようで、器全体から穏やかで温かみのある気配が漂います。茶盌としての機能美と、芸術作品としての造形美を兼ね備えたこの作品は、茶の湯の時間に静けさと癒しをもたらし、茶道具としての新たな可能性を提示しています。

辰砂釉が生む豊かな色彩の変化

「辰砂茶盌」の最大の魅力は、なんといってもその美しい色彩のグラデーションです。辰砂釉独特の鮮やかな赤が茶盌の上部を彩り、下に向かうにつれて青白い色へとゆるやかに変化していきます。この色の移ろいは、炎と釉薬が織りなす偶然の産物でありながら、藤平伸様の卓越した技術と感性によって見事に制御されています。

この釉薬のとろみは、表面に微妙な動きを作り出し、光を受けて様々な表情を見せます。その深みある赤色は力強さと温かみを感じさせ、青白い色合いは静寂と清涼感を与えます。この色彩の絶妙な調和が、見る者を惹きつけてやみません。

上品で端正な高台

「辰砂茶盌」の美しさは、胴体部分だけでなく高台の端正な仕上がりにも表れています。高台は茶盌全体を支える重要な部分でありながら、決して主張しすぎることなく、全体のデザインに溶け込んでいます。

その仕上がりは洗練されており、まるで作品を引き立てる舞台のような役割を果たしています。この細部へのこだわりが、茶盌全体の完成度をさらに高め、見る者に満足感を与えます。

藤平伸様の技法と詩情

藤平伸様は、伝統的な京焼の技法を継承しつつも、独自の詩的な感性を作品に反映させる陶芸家として知られています。「陶の詩人」と称される彼の作品には、遊び心と実験精神が息づいており、「辰砂茶盌」にもその特徴が存分に表れています。

藤平伸様は轆轤と手びねりを巧みに組み合わせ、形状の硬さと柔らかさを絶妙に調和させることに長けています。この「辰砂茶盌」も、その技術の集大成といえる作品であり、轆轤で整えられた胴体と、手作業で仕上げられた高台の調和が際立っています。

茶陶への挑戦と自由な発想

藤平伸様は、1993年に開催された個展「藤平伸―茶陶に遊ぶ」をきっかけに、本格的に茶陶の制作を始めました。この展覧会は、茶道具制作における彼の自由な発想と実験的な姿勢を示すものであり、その後の作品群にも大きな影響を与えました。「辰砂茶盌」は、そうした挑戦と遊び心の延長線上にある作品です。茶陶制作において大切にしたのは、「形式にとらわれず、自由に作る」という姿勢でした。この精神は、「辰砂茶盌」のデザインや釉薬の使い方に色濃く表れています。

「辰砂茶盌」の魅力：芸術と実用の融合

藤平伸様の「辰砂茶盌」は、茶道具としての実用性を持ちながらも、芸術作品としての独自性を失わない逸品です。その包容力のあるフォルム、辰砂釉の鮮やかで繊細な色彩、そして細部まで行き届いた丁寧な仕上げが、この作品を特別なものにしています。この茶盌を手に取ると、自然とその美しさに見惚れ、使うことでさらにその魅力を感じることでしょう。「辰砂茶盌」は、藤平伸様の詩情豊かな感性と高い技術が融合した、陶芸の歴史に残る名作といえます。茶の湯の時間をより豊かに彩るだけでなく、使う人に静かな感動を与えてくれるこの作品を、ぜひ堪能してみてください。

藤平伸様 来歴
1944 京都高等工芸学校に入学 病気のため中途退学
1945 藤平陶芸にて作陶
1957 第13回　日展にて特選・北斗賞受賞
1960 イタリア・フィレンツェ国際陶芸展
1963 第6回新日展にて菊花賞受賞 京都府文化功労賞受賞
1968 現代陶芸の新世代展 陶芸の現在－京都から展
1970 現代の陶芸ヨーロッパと日本展
1973 日本陶磁協会賞受賞
1974 中南米巡回展
1976 東独巡回日本陶磁名品展
1978 西ドイツ巡回日本陶磁名品展
1982 アメリカ・カナダ巡回展
1983 現代日本の工芸展
1985 現代日本美術の展望展
1990 京都美術文化大賞受賞
1991 京都市文化功労賞受賞

「本作品は未使用の新作です。現在、藤平伸記念館で保管されています。ご購入の際はご子息である藤平寧様が真作の証明として共箱を制作いたします」