芸術生成論15「花入の面白さ」
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花入の面白さ――焼き物だからこそ楽しめる世界
花を飾るとき、どんな器を使うかで空間の雰囲気は大きく変わります。生ける花そのものはもちろん重要ですが、「花を受け止める花入」がどのような表情をもつかによって、演出できる世界観は無限に広がるのです。今回は、茶の湯における花入の歴史・種類についても触れていきます。
1. 土の温かみを感じる緑釉の花入れ
最初にご紹介するのは、深みのある緑釉と土肌が溶け合うような独特の趣をもつ花入。表面にはとろりと釉薬が垂れた跡があり、焼成の過程で自然に生まれた景色のようにも見えます。
見どころ: 土の素材感と釉薬の溶け合いが織りなす「侘び・寂び」の風合い。
飾り方のヒント: 木漏れ日の下に咲いたような野花や小ぶりの枝物を挿すと、素朴な味わいが際立ちます。少し焦げ茶色が入った葉や、秋色の実などを合わせると季節感を演出しやすいでしょう。
2. 爽やかな青が目を引く、細身の花器
次に目を向けるのは、澄み切った空のような青いグラデーションが印象的な細身の花器。まるで海の色を閉じ込めたかのように優しいトーンが特徴的です。
見どころ: すらりとしたシルエットと、薄いブルーからやや白みがかった部分へ繋がるグラデーションの美しさ。
飾り方のヒント: シンプルに一本の花を挿すだけでも絵になります。ミニバラや一輪咲きのユリなど、花自体が映えるタイプを飾ってみましょう。玄関や窓辺に置いて、気分を明るくしてくれるアクセントになります。
3. 雪景色をまとったような柔らかさ──白と薄緑の花入
こちらは、うっすらと青みを帯びた白釉が層を成し、まるで雪が降り積もった山のようにも見える花入れ。下部の土の色が控えめに顔を覗かせていて、ナチュラルな風合いを感じさせます。
見どころ: 表面に現れた微細なひび(貫入)や釉薬の溜まりが生む「景色」。一つひとつ異なる表情を楽しめるのが魅力です。
飾り方のヒント: ベビーピンクや淡い黄色など、パステルカラーの花と合わせると、お互いの柔らかさが引き立ち合い、優しい雰囲気を演出できます。小さな葉物を添えても可愛らしいです。
4. 有機的なフォルムが独特の存在感を放つオブジェ的花器
最後にご紹介するのは、曲線が絡み合ったような有機的フォルムが目を引く花器。まるで大地から自然に生まれ出た結晶のようで、存在そのものがアート作品のような一品です。
見どころ: 焼き締め特有の土の質感や不規則な釉薬の流れが、偶然の芸術を形作っています。見る角度によって印象が変わるのも面白いところです。
飾り方のヒント: 高さのある枝ものや、ドライフラワーを挿すと彫刻的な雰囲気に。思い切って何も挿さずオブジェとして飾ってみるのも一つの楽しみ方です。
茶の湯で用いられる「花入」とは?
「花入」(はないれ)とは、文字通り花を入れて茶席に飾る茶道具のことを指します。歴史的に見れば、日本の伝統的建築である「書院造」(室町時代に誕生した、簡素な武家屋敷の建築様式)では、床の間に掛物と呼ばれる書や絵画を飾り、そこに花を添えることが当然のしきたりとされていました。
現代では花を飾る器全般を「花器」や「花瓶」と総称しますが、茶の湯の文脈ではこれらを「花入」あるいは「花生(はないけ)」と呼ぶことが多いです。
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花入と花器の違いは?
歴史的に見ると、日本では茶の湯の発展とともに陶磁の花入が使われるようになりました。銅製の花入が最も古く、陶磁製がそれに次ぎます。中国では唐代の彩壺が最初の花入とされます。
花入の種類
茶席で使われる花入は、掛ける場所や置き方によって大きく3種類に分けられます。
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掛花入(かけはないれ)
床柱や壁面の中釘、または花釘に掛けるタイプ。 -
釣花入(つりはないれ)
天井などから吊り下げるタイプ。空間の真ん中に宙吊りにして季節の花をあしらいます。 -
置花入(おきはないれ)
床の間などに直接置くタイプ。床が畳敷きの場合は薄板を敷いてから置くのが一般的ですが、籠の花入の場合は薄板を敷きません。板床であれば敷板も使用せず、直接花入を置くことが多いです。
「投げ入れ」と季節の花
茶席では、華美になりすぎないよう、自然に咲いている姿を大切にする「投げ入れ」という方法がよく用いられます。
- 季節感を重視: 春は桜や菜の花、夏は涼やかな草花、秋は紅葉の枝、冬は椿など、四季の移ろいを反映するのが茶の湯の流儀です。
- 香りの強い花は避ける: 茶席の雰囲気を乱さないよう、控えめな香りの花を選ぶのが一般的です。
花入れを選ぶ楽しさ
花器(花入)を選ぶとき、私たちはどのように飾ろうか、どんな花を挿そうか、そしてその花をどこに置こうか――さまざまなイメージを思い描きます。焼き物の花器は、一つひとつが自然の力と作り手の技術によって形作られ、同じものは二つとありません。その一点物の魅力が、花と器との出会いをより特別なものにしてくれるのです。
- 花の個性を引き出す: 派手な花には静かな色合いの器を、控えめな草花には力強い器を合わせるなど、対比の美学を意識すると思わぬ発見があるかもしれません。
- 四季を通して変化を楽しむ: 春は桜、夏はみずみずしいグリーン、秋は紅葉した枝、冬は椿の一輪など、季節に合わせて器や生け方を工夫すると、より豊かな暮らしが実現します。