芸術生成論10「青磁とは何か」

青磁とは、青色から緑色へ発色する青磁釉をかけ焼成された陶磁器である。あるいは、釉薬の中に含まれる鉄分が還元炎焼成によって青く発色した焼き物である。このように言われることが多いが、青磁にとりわけ求められるのは高い品格であろう。それも、青磁は本来中国の皇帝のためにつくられ愛されてきた特別な器を起源とするのだから。その形も、もともとは宗教的な儀式に使われた青銅器をかたどったものである。そして、色は「玉」でなければならない。つまり、翡翠を模すことを理想にしたのだ。青銅器の形に翡翠の色が足されることで、青磁はもっとも高貴な器になりえたのだ。

 

青磁輪花鉢 中国・南宋官窯 南宋時代・12~13世紀  

青磁のはじまりは、草木の灰を溶いた素朴な灰釉が掛かった焼き物であり、そこに微量の鉄分が加わったことで、薪や石炭を原料にした窯で高温の還元炎焼成(酸素不足の不完全燃焼の状態)の効果による。酸化炎では茶色に焼き上がる原始的な灰釉が「緑」や「青」に輝く青磁に変わったのだ。この過程は実に2000年以上にわたって改良が重ねられ、中国の窯業技術の進化とともに美しい器が生まれた。

 

《青磁鳳凰耳瓶》龍泉窯,中国・南宋時代,13世紀

青磁の独特な美しさは、端的にその色彩に表れているといえるだろう。緑とも青とも見えるその幽玄な発色は、単なる塗料による青ではなく、鉄分を含んだ釉薬が還元焰焼成によって青く発色する特殊な原理から生み出されている。青磁の釉薬は「青みを帯びた」ものであり、決して均一な青色に発色する釉薬ではない。コバルトなどの顔料で着色した均質な青い釉薬とは根本的に異なり、その色彩は複雑で、時には日光や光の強さにより異なる表情を見せる。自然光で眺めると、日差しの強い昼間には澄み切った青に見え、夕方には緑色へと変わり、一日の中でもその色調を刻々と変える。この神秘的な変化が、青磁の最大の魅力の一つである。

 

《青磁玉壺春形瓶》龍泉窯,中国・元時代,14世紀

 

青磁の発祥は、後漢時代(西暦25~220年)の中期頃、浙江省の曹娥江中流域一帯とする見方が有力である。さらにルーツを遡れば、殷時代(紀元前1600~前1028年)の中期に登場した器面に灰釉をかけて高温で焼き上げたやきものに至るが、これは半磁器で、釉色も灰黄色か灰緑色を呈していて、「青磁」と断定的に言い切ってしまうには早い(一般に「原始青磁」と呼ばれる)。後漢時代に一応の原形を見せた青磁は、その後も色彩や形状、デザインにおいて美的な錬磨を重ねながら、唐の越窯、北宋の汝窯、南宋の龍泉窯などに受け継がれていく。このうち、越窯の青磁には「秘色」という格別の言葉が冠された。往時の記録に、「越州の焼進は供奉の物となし臣庶用いるを得ず、故に秘色という」(『高斎漫録』)とあり、貴族のみが使用できた特別なものであったことがわかる。時の詩人は、オリーブ系のどこかおっとりしたその色合いに、「千峰の翠色を奪い得て来る」と嘆じたとも伝えられている。

 

板谷波山《青磁蓮花口耳付花瓶》1944年

 

龍泉窯の青磁は、一般に粉青色の美しい色が特徴で、日本ではこれを「砧青磁」と呼ぶ。この呼称の由来は、一説には、仙台の伊達家に伝わる鯱耳花生に割れがあったのを、千利休がその響きがあることから「砧」と名づけたことに由来するという。そして、これら越窯や龍泉窯を凌ぎ、「青磁の最高峰」とも評されるのが汝窯の青磁である。汝窯の青磁は、他の青磁に比してオリーブないし緑色系を脱して、より理想的な青に近づいているとされる。汝窯の釉薬は、一度の施釉で済ませるという特徴があり、釉層が薄いにもかかわらず、素地の色が現れない。これは、釉薬と素地の境に白色の化合物が形成されるためである。最高の青を追求したその技術は、まさに高度な科学的な技術の結晶であったのだ。

 

岡部嶺男《窯変米色瓷博山炉》1971年

 

さらに、青磁には「貫入」と呼ばれる装飾が施されていることがある。貫入とは、焼成時の土と釉薬との収縮率の違いによって生じるヒビである。これを敢えて装飾として取り込み、さらにベンガラや墨を塗り込んでそのヒビに色をつけた青磁も存在する。この技法は、特に南宋時代の青磁に見られ、貫入のあるものとないものが当時すでに作り分けられていたことがわかる。こうした技法の違いは、意図的に収縮率の異なる土を用いる必要があり、青磁の製作には非常に高度な技術が求められていたことを示している。一方、青磁とよく似たやきものに「青白磁」があるが、これは本来「白磁」に分類されるものである。青白磁は、白磁と同じく精製された不純物の少ない磁土を用い、その上に掛けられる透明釉の中に含まれる微量の鉄分が、還元焼成で青味を帯びて発色したものだ。磁土が白いため、釉薬に厚みがないことも相まって、全体に淡い水色の色調が特徴となる。

 

神農 巌《堆磁線文壺》2012年

 

現代作家たちは、自らの青磁作品に「青瓷」と記すことが多い。これは、主に陶土を素材にした中国宋代の官窯青磁に倣って作品を制作しているという意思の表れである。また、青白磁を制作する作家は、「磁」の文字を用いており、両者の違いはその名称にも表れている。現代においても、多くの作家が青磁に適した陶土を探し出し、刷毛や柄杓を使って何層にも釉薬を厚く掛け、独自の深みを持つ青さを追求し続けているのである。青磁は長い歴史を経ながら、現代においてもなお新たな進化を遂げているのだ。

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