芸術生成論23「茶室の畳」

畳がつくる、茶室という小宇宙

日本の伝統的な住空間を象徴する「畳」。近年ではフローリングが主流となり、和室そのものが少なくなりつつあるとはいえ、「やはり日本人には畳の感触がしっくりくる」という声も根強く残っています。特に「茶の湯」を行う茶室では、畳が大変重要視されます。茶の湯で行われる立ち居振る舞いは、正座や摺り足が中心であるため、肌に直接触れる畳の質感が、茶室全体の静寂やもてなしの雰囲気を大きく左右するのです。たとえ視覚的には同じように見える畳でも、表面(畳表)の質感が毛羽立っていたり、畳床のクッション性が乏しかったりすると、茶会を体験する人の印象は大きく変わってしまいます。今回は、そんな茶室の畳を中心に、茶室全体の構成や歴史、そして畳がどのように茶の湯の空間を支えているのかを見ていきたいと思います。


第一章:茶室と畳の歴史的背景

1-1.草庵の茶―侘び寂びの精神と畳

茶室と聞くと、多くの方がまず思い浮かべるのは、千利休が極めた「草庵の茶室」でしょう。草庵茶室は、狭く暗い小空間をあえて作り出し、竹や土壁などの自然素材を用いて、侘び寂びという日本独特の精神性を表現する場として考案されました。この「草庵茶室」の中で、最も人が触れ、意識するものの一つが畳です。極限まで簡素化された茶室では、畳そのものが室内装飾の大きな要素となるため、畳表の艶や色味、畳床の弾力などが、美意識と深く結びついていきます。茶人は畳に正座をし、時には道具を置き、時には衣服が畳に擦れる音に耳を澄ませる――茶の湯のなかで培われる五感は、畳なしでは成立しえなかったといっても過言ではありません。

1-2.書院の茶―格式を示す空間と畳

安土桃山時代から江戸時代にかけて武家社会を中心に流行した「書院の茶」では、畳の在り方もやや趣が異なります。書院造と呼ばれる建築スタイルを背景に、大広間や床の間に美しい襖絵や華やかな装飾を施すことで、権威を示すという目的が加わりました。書院造の大空間に敷き詰められる畳は、草庵茶室のような「小さく質素」なものではありませんが、それでも茶の湯の根底にある「もてなし」の精神は共通しています。大広間に足を踏み入れた際の、ふかふかとした畳の踏み心地、ほのかなイグサの香り――こうした感覚的な体験を通して、客を丁重にもてなす心が伝わるのです。いずれの場合も、茶室の空間を語る際に欠かせない存在となるのが、茶室用の「畳」ということです。草庵であれ書院であれ、畳がなければ茶室は成り立たず、日本の美意識を感じ取る機会も大きく損なわれてしまうことでしょう。


第二章:茶室の構成要素と畳の意義

茶室は通常、「露地(茶庭)」「躙口(にじりぐち)」「炉(ろ)」「床の間」「窓」「天井」「水屋」など、いくつかの重要な要素によって構成されています。そして、その床に敷かれる畳こそが、人と空間を直接つなぐ役割を担います。

2-1.露地(茶庭)と畳への入り口

茶室に入る前に通る「露地」は、日常から非日常へと誘導するための準備空間といわれます。腰掛待合、石灯籠、躙口への小道などがあり、そこで精神を落ち着かせてから畳敷きの茶室へと向かいます。外の土や石を踏んだ足で、躙口を通り畳の上へ移ると、そこにはまったく異なる空気が広がります。ほんの数十センチの段差ながらも、土足の世界から畳敷きの世界へと切り替わる瞬間こそ、茶室という非日常空間への第一歩です。それだけに、畳がもたらす感触の「変化」は、茶室体験を特徴づける大きなポイントとなっているのです。

2-2.躙口と茶室平等の精神

千利休が草庵茶室「待庵」に初めて設けたとされる「躙口」は、高さも幅も60~70cmほどのごく小さな入口です。身分の上下を越えてすべての人が頭を垂れ、身体をかがめて入室する構造から、「茶室内ではみな平等」という茶の湯の精神性を象徴するものといわれます。この躙口をくぐり、畳の上に正座した瞬間、誰もが身分や地位を忘れ、ただ「一人の人間」として茶をいただくことになる――そのシーンにおいても、地面から一段高い「畳敷き空間」が重要な意味を持つのです。

2-3.炉のある茶室と畳の加工技術

茶室といえば、炭火で湯を沸かすための「炉」を連想する方も多いでしょう。炉は畳を切って造り込まれることが多く、その加工には高度な技術と正確な寸法合わせが必要です。炉縁と畳の取り合い部分がほんの少しでもずれていると、畳面から炉縁が浮き上がってしまったり、逆に沈みこんでしまったりするため、美観を損ねるだけでなく、お点前にも支障が生じます。炉縁と畳が面一(つらいち)になるように仕上げるためには、畳床を切り込む前にワラ床が膨れないように工夫をしたり、炉縁と畳縁のサイズを微妙に調整したりと、畳店の腕の見せどころです。茶の湯に精通する方々は、炉回りの処理を見れば、その畳店の技量がおおよそわかるといわれるほど、炉付き畳は高い専門性を要します。

2-4.床の間・窓・天井との調和

茶室には必ずといっていいほど設けられる床の間は、掛け軸や花入れを飾るスペース。その前に敷かれた畳の上で客は膝行(しっこう)をし、掛け軸の言葉や花の意匠を眺めながら季節や趣向を感じとります。また、茶室の窓から差し込む柔らかな光や、天井の形状(書院茶室なら格天井、草庵茶室なら化粧屋根裏など)とも、畳の表情は密接に関係しています。障子から透ける日差しが畳表の織り目をやさしく照らし、季節や時間帯によって美しい陰影を生み出す。茶室内の光と影の演出は、畳があることでより一層ドラマチックなものになるのです。

2-5.水屋とお点前の準備空間

最後に、茶を点てる準備や後片付けを行う「水屋」も、茶室には欠かせない存在です。ここでも床に畳が敷かれる場合があり、道具を搬入・搬出するときに荷物が置かれたり、人が頻繁に動いたりするため、畳の耐久性が求められます。水屋に限らず、お茶の道具は高価なものが多いため、畳に傷や毛羽立ちがあると道具を痛める恐れがあるのです。そうした意味でも、茶室用畳には「高品質であり、頑丈であること」が強く要求されます。おもてなしの心を形にするためには、しっかりとした畳こそがベースになっているといえるでしょう。


第三章:茶室の畳に求められる品質と技術

茶室用畳は一般の住宅用畳よりも厳格な寸法・品質基準があり、なかでも「畳表」と「畳床」の選択は非常に重要です。

3-1.高品質の畳表がもたらす“おもてなし”と安心感

茶道の所作では、畳の上で膝行をしたり、道具を扱う際に擦れたり、あるいは正座したときの目線で畳表がよく見えます。ここで、品質の劣る畳表だと毛羽立ちやささくれ、色むらなどが目立ちやすく、せっかくのお茶会の雰囲気が台無しになってしまう可能性が高まります。また、来客が着物を着ている場合、畳の状態が悪いと着物を傷めてしまうケースもあります。その点、国産の高品質イグサで織った畳表は、目の詰まりがしっかりしていて耐久性が高く、足触りや肌触りも格段に良いため、安心してお茶会を行うことができるでしょう。

3-2.ワラ床(藁床)の踏み心地と耐久性

畳の内部、いわゆる「畳床」は、近年さまざまな素材が開発されていますが、お茶室の畳には伝統的なワラ床(藁床)が好まれる傾向があります。ワラ床は、

  1. 踏み心地が柔らかい
  2. 足音を吸収して静寂を保ちやすい
  3. 耐久性が高く何度も張り替えができる
    といった特長を備えています。
    お茶室では正座が基本動作ですから、長時間座っていても足が痛くなりにくいワラ床は大変重宝されます。また、数十年単位で畳表を張り替えていく際、ワラ床がしっかりしていれば畳を丸ごと交換する必要がなく、伝統的な「床」として長く使い続けられるというメリットもあります。

3-3.寸法のこだわり――「六十四目」と炉の加工

茶道の世界では、畳の短手幅を京間サイズ(3尺1寸5分=約95.5cm)にする、あるいは畳の目数を「六十四目(縁内60目)」にするなど、細かい規格が設定されています。これは、

  • 茶道具を置くときに具合がいい
  • 点前の動線や所作がスムーズ
  • 畳の見た目にも美しさが感じられる
    といった理由によるものです。
    加えて、茶室には炉縁(ろぶち)の寸法もほぼ決まっており(1尺4寸角、厚み2寸2分など)、畳床を切り込む前に「ワラ床が膨れないようにする」前仕事を施すなど、非常に繊細な工程が要求されます。

3-4.置き畳という新しい発想

「置き畳」とは、ワラ床ほどの分厚さはないものの、軽量化や耐水性を重視したクッション素材を使うことで、

  • 軽くて持ち運びしやすい
  • 必要なときだけ畳空間を作れる
  • サイズが京間寸法になっているため、お点前の練習に最適
    といったメリットがあります。こうした「置き畳」は、公民館や体育館、オフィスの一角でも簡易茶室を実現できるため、現代の住まい事情やライフスタイルに即した新しい選択肢として注目を集めています。

 

(畳のデメリット)

畳は日本の伝統的な床材として、茶室のような特別な空間で重要な役割を果たしていますが、現代の生活においてはいくつかのデメリットも存在します。まず、メンテナンスの手間が挙げられます。畳は湿気を吸収しやすく、カビやダニが発生する可能性があります。そのため、定期的な換気や掃除、場合によっては天日干しなどの手入れが必要です。特に茶室のように湿度管理が重要な空間では、より丁寧な管理が求められます。また、畳表は擦り切れやすく、定期的な張り替えが必要となります。藁床の場合は耐久性が高いものの、張り替えには専門の職人の技術が必要で、費用もかかります。次に、傷つきやすさもデメリットです。重い家具を置いたり、硬いものが当たったりすると、へこみや傷ができてしまいます。茶室では道具の出し入れや人の出入りがあるため、畳が傷つくリスクは避けられません。畳表は水分に弱いため、飲み物をこぼしたりするとシミになりやすく、注意が必要です。現代の生活様式との不一致も挙げられます。フローリングに比べると柔らかく、重い家具を置くと跡が残ったり、安定しなかったりする場合があります。また、掃除機がかけにくい、ダニ対策が必要など、現代の生活スタイルに合わない点もあります。特に、アレルギー体質の人にとっては、ダニやカビの発生は大きな懸念材料となります。これらのデメリットは、畳が自然素材であること、そして日本の気候風土に合わせて発展してきたことに起因しています。茶室のような特別な空間では、これらのデメリットを理解した上で適切な管理を行うことが重要となります。


第四章:名茶室に見る畳の魅力――待庵・如庵・その他

千利休作と伝えられる「待庵(たいあん)」や、織田有楽斎によって建てられた「如庵(じょあん)」などは、いずれも狭い空間ながら日本建築の粋を凝縮した国宝級の茶室です。ここでは、それぞれの茶室が持つ畳の役割や美意識を考えてみましょう。

4-1.待庵(たいあん)

「待庵」は、わずか二畳という極小の茶室で、にじり口から入るとほとんど身を屈めるようにして室内へ入ります。狭い、暗い、質素――といった言葉が当てはまるにもかかわらず、不思議と深い静寂と安らぎに包まれるのがこの茶室の特徴です。狭いがゆえに、畳に施されたディテールや畳表の状態はより一層際立ちます。正座をしたときに畳表がもたらす安心感と、フワリと足を包むワラ床の弾力――こうした五感的な心地よさが、「わび」の精神を肌で感じさせてくれるのです。千利休の審美眼は、畳の織り込み具合や炉の配置に至るまで、細やかなこだわりを持っていたに違いありません。

4-2.如庵(じょあん)

如庵は、織田信長の弟・有楽斎(うらくさい)によって建てられたと伝えられる茶室です。二畳半台目という独特の寸法取りを特徴とし、外観・内観ともに極めて簡素ななかに、武家茶らしい剛直さと洗練が同居しています。畳は、これまた小ぶりな茶席に合わせて一枚一枚微妙にカットされており、炉を含む全体構成が綿密に計算されています。「暦張りの席」「有楽窓」など、意匠的にも目を引く仕掛けが多いですが、最終的に人が腰を下ろして安らぐのはやはり畳の上。木や土壁の質感とのコントラストにより、畳の青々とした色味がひときわ美しく感じられます。

4-3.その他の名席

待庵、如庵のほかにも、大徳寺龍光院の「密庵」や桂離宮の「松琴亭」など、著名な茶室が数多く存在します。どの茶室も、畳の寸法や敷き方、床の間や炉の位置に非常にこだわりを持ち、それが何百年もの時を超えて名席と称えられる理由のひとつになっているのです。歴史ある茶室を訪ねるときは、掛け軸や建築様式だけでなく、ぜひ「畳」そのものにも目を向けてみてください。どんな織り目をしているのか、どのように炉縁があしらわれているのか、畳と柱や壁との取り合い部分はどうなっているのか――そうした細部に、日本の伝統文化が凝縮されています。


第五章:畳がもたらす空間演出――光・風・音との調和

5-1.光が映し出す畳の陰影

茶室では、照明は必要最小限に抑えられるのが一般的です。むしろ、障子や小窓などから差し込むやわらかな自然光こそが、室内を最も美しく演出します。畳の織り目には微妙な凹凸があるため、そこに光が当たると繊細な陰影が浮かび上がり、侘び寂びの世界観がより深まります。時間の経過とともに、光の角度や強さが変われば、畳の表情も移ろいます。朝の柔らかい光が差し込む畳と、夕暮れの赤みを帯びた光に染まる畳とでは、まったく異なる空気感をもたらしてくれるのです。茶人は、この刻々と移ろう自然のリズムを感じ取りながら、一碗のお茶を点て、客人をもてなすのです。

5-2.微かな風が運ぶ畳の香り

茶室が狭いほど、微かな風の流れにも敏感になります。畳はイグサの香りを放ち、空気の動きによってその香りが室内を包み込むとき、客はまるで森のなかにいるような安らぎを覚えることがあります。夏の暑い時期には、風通しを良くすることで涼感を演出し、同時に畳が湿気を吸収して快適性を保ちます。現代の住宅では、エアコンで空調を管理することが主流になっていますが、茶室では自然の力を最大限に利用し、畳をはじめとする素材と一体となって五感を満たす空間を生み出しています。そこには、人間が本来持っている感覚を呼び覚ます力があるのです。

5-3.音――静寂を生む畳の吸音性

茶室といえば「静寂の空間」というイメージがありますが、その静けさは実は「無音」ではありません。むしろ炭火のはぜる音や、お湯が沸く音、畳を擦る衣服の音など、繊細な音が際立つ世界ともいえます。畳は、フローリングに比べると音を吸収しやすいという性質があります。摺り足で歩いても、かすかな擦過音しか立たず、静謐な茶室の雰囲気を壊さないのです。音の響きを最小限に抑えると、茶室の中ではごく小さな音がかえって大きく感じられ、五感が研ぎ澄まされます。これは、茶室ならではの「陰翳礼讃」の美意識と深く通じ合うのです。


第六章:畳と現代のライフスタイル――伝統の継承と進化

6-1.ミニマリズムとの共通点

現代建築やインテリアのトレンドとして「ミニマリズム」が注目されていますが、その思想は茶室の「省略の美学」と通じる部分が多いといわれます。不要な装飾を徹底的に排除し、光や陰影、素材感を最大限に引き出す――こうしたアプローチは、茶室建築が古くから実践してきたことです。畳の青々とした表面、障子越しの柔らかな光。そこに余計な調度や色彩は必要なく、それだけで完結した美しさを醸し出すのが「侘び寂び」の世界。現代の住空間であっても、畳コーナーを設けてみると、思いがけず心地よい“余白”と“静寂”が生まれ、モダンなインテリアとも絶妙に融合するのです。

6-2.異素材との組み合わせ

コンクリート打ちっぱなしや金属、ガラスといった無機質な素材と、伝統的な「畳」を組み合わせる試みも増えてきました。ホテルのロビーや商業施設でも、洋風モダンな空間の一角に畳スペースを設けることで、日本的なホスピタリティを演出したり、異素材の対比から斬新なデザインを引き出したりしています。
見た目はクールなガラス壁面で囲まれていても、足元に畳があるだけで心身がリラックスする――そんな体験をした方も多いでしょう。これは、畳がもつ独特の暖かさと柔軟性が、人間の五感にダイレクトに働きかけるからです。

6-3.簡易茶室と住宅事情

現代の住宅事情では、昔のように大きな和室や本格的な茶室を備えられる家は限られています。そこで、「置き畳」を使った簡易茶室を取り入れるケースが増えています。フローリングのリビングや洋室でも、必要なときにサッと畳を敷くだけで“和空間”に早変わりです。茶道の稽古をしたり、客人をもてなしたり、あるいは読書や瞑想を楽しんだりするのにも最適です。茶室の畳と同じ京間サイズが用意されているので、道具や所作も流派に合わせてしっかり練習できるのが魅力です。こうした手軽なアプローチは、「畳を取り入れたいけどスペースがない」「畳のメンテナンスが不安」という方にとって大きな助けとなるでしょう。


第七章:畳文化のこれから――伝統を守り、次世代へつなぐ

畳は、縄文時代の莚(むしろ)に端を発するといわれ、平安時代には上流社会で寝具や座具として用いられ、室町~桃山時代になると茶室建築や書院造の発展とともに部屋全体に敷かれるようになりました。江戸時代以降、畳は一般庶民の家にも普及し、昭和中期には製畳機の導入で大量生産が可能になりました。
しかし、フローリング住宅の増加やライフスタイルの変化によって、畳文化は一時的に縮小する傾向が強まりました。とはいえ、近年では日本の伝統文化に再び関心が高まり“心と身体を休められる空間”としての畳の価値が見直されています。また、2020年には「伝統建築工匠の技」として、畳製作がユネスコ無形文化遺産に登録されるなど、その重要性が国内外で注目を集めるようになりました。

7-1.職人技の継承と進化

茶室用畳をはじめ、伝統的なワラ床の畳には、地域によって異なる技術や寸法、敷き方があります。これらは長い年月を経て職人の手によって受け継がれ、改良を重ねられてきました。しかし、近年は後継者不足や原材料の確保など、多くの課題に直面しているのも事実です。そんななかでも、歴史ある畳店や若い職人たちが、茶道の専門家と連携しながら新しい商品を開発したり、海外へ積極的に技術を発信したりと、伝統を守りながらも柔軟な姿勢で未来を切り拓こうとしています。置き畳や樹脂畳などのバリエーションが増えているのも、その「進化」の証といえるでしょう。

7-2.畳がくれる心身の癒し

畳には吸音性や断熱性、調湿性など、多くの優れた機能が備わっています。香りにはリラックス効果も期待でき、自然由来の素材はアレルギー対策にも適しています。さらに、茶室の静謐な空間で過ごすことで得られる精神的な安定感は、現代のストレス社会においても大いに活用すべき価値があるものです。
都会のマンションでも、一隅に小さな畳コーナーを作り、そこでお茶を点てたり、本を読んだり、ヨガや瞑想をしてみたり――そうした時間を過ごすだけで、気持ちが落ち着き、身体のこわばりもほぐれてくるものです。日本人にとって、畳はただの「床材」以上の存在。長い歴史の中で育まれてきた精神文化の象徴でもあります。

茶室は、茶の湯のために特化した“小宇宙”といわれます。しかし、その空間を成り立たせる要素のなかで「最も身近」で「最も重要」といっても過言ではないのが畳です。炉の配置や床の間、窓からの光の入り具合など、すべての演出が畳の上で完結し、客や亭主の所作は畳の目をガイドにして進行していきます。私たちが日常を生きるなかで、畳の上に正座をし、一服の茶をいただく――そんな行為を通して得られる豊かさや静けさは、スマートフォンやPCの情報過多な世界ではなかなか味わえない特別な体験かもしれません。ぜひ機会があれば、本格的な茶室や「置き畳」を活用した簡易茶室に足を運んでみてください。畳の香りに包まれ、膝をついた瞬間から体の力が抜け、心が和むのを感じられるでしょう。茶の湯は、道具や所作に目が行きがちですが、それらを静かに支える畳こそが、真の意味での“空間のおもてなし”を実現しているのです。畳という日本の伝統文化を、これからも大切にしながら、次の時代へとつないでいきたい――茶室の畳を通して、その思いを深めていただければ幸いです。

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