CELADON―東アジアの青磁のきらめき

特別展「CELADON―東アジアの青磁のきらめき」

令和7年4月19日(土)~11月24日(月)
大阪市立東洋陶磁美術館(MOCO)


唐代の陸羽『茶経』が越窯の青磁を「類玉」「類氷」と讃えたのは有名である。一方、朝鮮半島の高麗時代に焼かれた青磁は、その淡い緑青色が翡翠に似ているところから「翡色」と呼ばれ、またその貴重さゆえ金銀器に勝るものと評価された。こうした名称のゆらぎは、青磁が単一の色彩では語り得ない多義性を備えていることを示している。

「日本では青磁といって、緑色のものをさすのか、それとも灰青色のものをさすのか、一定していない」と指摘されることもあるが、そもそも中国語の“青”は緑色も含む。青磁の名が示すとおり、その本質は“青”という色そのものにあるというより、玉のような光沢と潤いを備えた釉調にあるだろう。だからこそ青磁を評するときには「氷」「玉」「翡翠」など、硬質の光沢をもつ物質になぞらえる表現が数多く用いられてきた。実は、陶磁器には青という色の釉薬というものは存在しないといわれる。釉薬は黄褐色と灰色とが混ざって青緑色になるのである。しかもこの色は、焼成条件や胎土によって千変万化し、同じ窯の中でもまったく同一の色調は得られない。

本特別展の魅力も、東アジアにおける青磁の特性を存分に確認できるだろう。


Ⅰ.「青磁」という名の由来と東アジアでの受容

「青磁」といえば、まずは中国語の“青瓷”という語が思い浮かびますが、日本では古来“せいじ”と読まれ、また欧米では“Celadon(セラドン)”と呼ばれています。中国で青は時に“緑”をも含意し、韓国では翡翠の色にちなんで“翡色”と称されました。

青磁は単一の色ではなく、地域ごとに“玉のような青”“翡翠の緑”“雨上がりの空色”など多義的に受け止められてきました。本展の《青磁刻花牡丹唐草文瓶》(北宋・耀州窯)はオリーブグリーンに近い色調を帯び、《青磁陽刻菊花文碗》(高麗)は乳白がかった翡色を示します。「同じ青磁でもこれほどまでに表情が異なる」――これこそが青磁鑑賞の醍醐味と言えるでしょう。


Ⅱ.見どころ① 国宝《飛青磁花生》とMOCO青磁コレクション

国宝《飛青磁花生》(元・14世紀/龍泉窯)
黄金比とも評される均整の取れた造形、深い翠色の釉、鉄斑の配置――その完璧さは「青磁の到達点」として世界的に知られます。

 

重要文化財《青磁刻花牡丹唐草文瓶》(北宋・耀州窯)
透明感のある釉と深彫り文様が織りなす光と影は、宋代工芸の粋を示しています。

 

《青磁象嵌童子宝相華唐草文水注》(高麗)
象嵌技法による白黒の文様が翡色釉に浮かび上がり、愛らしい童子像を際立たせます。

「青磁の釉色は、胎土の鉄分量、還元炎の強弱、焼成温度のわずかな差異によって千変万化します。まさに“窯変(ようへん)の芸術”であり、制御不能の自然と向き合う作陶家の祈りが込められているのです。」


Ⅲ.見どころ② 高麗青磁の“翡色玲瓏(ひしょくれいろう)”

高麗時代(10–14世紀)には、中国青磁の技術を学びつつも独自の翡翠色が追求されました。B記事では、「翡色は金銀器以上に尊ばれた」と記され、高麗王朝が唐物以上の贈答品として青磁を用いた史実が紹介されています。

本展では下記の名品が揃います。

作品 時代・窯 特徴
青磁陽刻菊花文碗 高麗・12世紀 五弁花形の端正なフォルムと淡い翡色
青磁瓜形瓶 高麗・12世紀前半 瓜の胴部と百合形の口が織り成す優美な曲線
青磁彫刻童女形水滴/童子形水滴 高麗・12世紀 800年ぶりに大阪で“再会”した愛らしい文房具

Ⅳ.見どころ③ 日本における青磁受容と創造

「日本では鎌倉・室町期に中国青磁が“唐物”として尊重され、江戸期には有田をはじめ各地で国産青磁が生み出されました。とりわけ鍋島藩窯は将軍家献上品として青磁染付の新境地を拓き、明治以降は板谷波山らが“白磁の静謐”に青磁の透明感を融合させています。」

本展第3部「青磁脈脈」では、鍋島藩窯の《青磁染付青海波宝尽文皿》や近現代作家の挑戦的な作品を通じ、日本人が青磁に託してきた“理想の青”をたどります。


Ⅴ.展示構成と関連プログラム

第1部 「青磁至宝」—中国・韓国の国宝級青磁10件

第2部 「翡色玲瓏Ⅰ・Ⅱ」—高麗青磁のきらめき

第3部 「青磁脈脈」—江戸から現代へ、日本の青磁

第4部 「青翠如玉」—越窯から龍泉窯まで、中国歴代青磁


Ⅵ.ご来館案内

会期 令和7年4月19日(土)~11月24日(月)

開館時間 9:30–17:00(入館16:30まで)

休館日 月曜ほか ※祝日開館・翌平日休館あり

観覧料 一般2,000円/高・大学生800円(中学生以下・大阪市内65歳以上ほか無料)

会場 大阪市立東洋陶磁美術館(大阪市北区中之島1-1-26)


おわりに

今回の特別展は単なる名品鑑賞にとどまらず、“東アジアの美意識の交差点”としての青磁を体感できる絶好の機会となる。色のニュアンス、造形の妙、そして時空を超えて受け継がれた技術と精神――そのすべてが展示室で静かに輝いています。

青磁の魅力は釉色だけでなく、器形や装飾技法の多様さにもあります。中国北宋の耀州窯では、鋭利な彫刻刀で文様を刻み、釉薬の濃淡で陰影を際立たせる刻花技法が発達しました。高麗では象嵌技法が生み出され、白と黒の化粧土を嵌め込んだ文様が翡色の釉に浮かび上がります。また南宋龍泉窯の青磁は、厚手の釉層がもたらす“雨過天青”の深い青に加え、胎土との収縮差によって貫入が生じます。光を透かすと無数の亀裂が網目のように走り、玉石の内部に封じ込められた霧のような景色を見せるのです。

わが国に青磁が伝来したのは奈良時代に遡ると考えられますが、本格的に珍重されたのは鎌倉・室町期のことでした。禅僧や武家が中国南宋の青磁を“唐物”として賞玩し、茶の湯の成立とともにその価値は頂点に達します。江戸時代になると有田焼を中心に国産青磁が試みられ、肥前鍋島藩窯では将軍家献上のため青磁染付という新境地が拓かれました。さらに近代以降、板谷波山をはじめとする陶芸家たちは、東洋古陶磁の研究と科学的分析を踏まえ、白磁の静謐と青磁の潤いを融合させた新たな表現を探求しました。今日、世界の現代陶芸家が Celadon をテーマに競作するのは、その奥行きある色調と歴史的物語性が、なお尽きせぬインスピレーションの源泉だからにほかなりません。

このように、中国・韓国・日本の青磁は、地域と時代を超えて互いに影響しあいながら発展してきました。釉薬の化学的メカニズムは同一であっても、そこに込められた美意識と技術的工夫は千差万別です。

 

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