油滴天目花器 竹村繁男
油滴天目花器 竹村繁男
幅 : 23.0cm 高さ :21cm
油滴天目花器の美しさと存在感
竹村繁男様が手掛けた「油滴天目花器」は、油滴天目の技法によって生み出された斑紋が、星空を思わせる幻想的な輝きを放つ作品です。その大きさと重厚感から、空間に堂々たる存在感を示し、どっしりとした安定感あるフォルムが、一層その美しさと風格を引き立てます。竹村様の技法により、光の角度や周囲の照明によって輝きを変える様子は、まさに星々が輝く夜空のようであり、観る者を深遠な宇宙へと誘います。
油滴天目の神秘的な技法
「油滴」とは、鉄釉の中に含まれる金属成分が焼成過程で釉薬表面に浮かび上がり、まるで油の滴のような斑紋が形成される現象を指します。これが、まるで宇宙に広がる星雲のように銀色の点々を放ち、さらに光の加減で虹色に輝く場合は「曜変」と呼ばれます。竹村様の油滴天目花器は、この油滴の輝きが一面に広がり、見る角度によって変化する表情がその魅力を増幅しています。
油滴天目の歴史と伝統
油滴天目の技法は、12世紀から13世紀にかけて、中国南部の福建省に位置していた建窯(けんよう)で生み出されたものです。この建窯の作品は、日本の武将や茶人たちの間で非常に高い人気を誇り、戦国時代には多くの武将や茶道愛好家に愛されました。油滴天目の斑紋は、窯内で自然に生成されるもので、その姿はまるで夜空に瞬く星々や宇宙そのものを思わせるものでした。また、玉虫色に輝く油の斑点に似た模様が、宇宙の広がりや未知なる美しさを感じさせることから、「油滴天目」と名付けられました。
天目茶碗の起源と伝来
天目茶碗(てんもくぢゃわん)の起源は、中国の天目山周辺で用いられた茶道具にあります。天目釉(てんもくゆう)と呼ばれる鉄釉を用い、黒く発色させた陶器製の茶碗で、長石や石灰岩、鉄イオンを原料とする釉薬を使用します。鉄釉は、紀元前の周時代から使用されていたものの、現在の浙江省にあった徳清窯(とくせいよう)で製造された東晋期の茶碗が本格的なものとされています。その後、宋時代になると、白茶の流行とともに黒い釉薬の茶碗が珍重され、次第にその生産が盛んになりました。
日本における天目茶碗の受容と進化
天目茶碗は、禅宗が盛んだった鎌倉時代の日本に禅僧たちによって伝えられました。彼らは中国での修行を経て喫茶の習慣を持ち帰り、それに伴い中国の天目釉の茶碗も広まったのです。室町時代の足利義政の代には、茶道において天目茶碗が特に重視され、現在でいう「わび」「さび」を追求する日本の茶道文化と結びつき、広く浸透していきました。これにより、2段口の構造をもつ天目茶碗が茶人たちに愛用されるようになり、台子点前や貴人点など、茶会の重要な席においても欠かせないものとなりました。
天目釉の特性と釉薬の鉄分
天目釉は鉄を多く含むため黒く発色し、その含有率により色味が異なります。鉄分が1 - 2%ほどならば青磁に、15%以上になると黒磁となり、釉薬の鉄分の含有率に応じて「飴釉(あめゆう)」「柿釉(かきゆう)」などとも呼ばれました。このような黒磁は、日常の陶器としても生産されましたが、油滴天目のような作品は特別な技法であるため、当時の中国でも珍重される存在だったのです。
花器としての安定した美と用途
竹村繁男様の手がける油滴天目花器は、重厚感のある安定したフォルムとその輝きの美しさが魅力で、器自体が芸術作品として成立しているため、花を挿さなくても十分な存在感を放っています。しっかりとした重量感と安定感は、現代のインテリアとしても調和し、室内に置くだけで空間に深みと落ち着きを与えてくれます。この美しい油滴の輝きが見る人の心を惹きつけ、油滴天目の神秘性と竹村様の技術が結晶したこの作品は、単なる装飾品にとどまらない、見る者の心を魅了する芸術作品です。
竹村繁男様の自然灰釉へのこだわりと独自の技法
竹村繁男様は、京都府山科に生まれ、京都府指定無形文化財保持者である木村盛伸氏に師事し、30年以上にわたり自然灰釉を用いた独自の技法で作品制作を続けてきました。自然灰を用いることで得られる独特の釉薬の質感と色合いにこだわり、釉薬の調合から焼成まで一貫して行う竹村様は、現代陶芸における自然灰釉の第一人者としてその名を広めています。手がける作品には、自然の恵みを活かした灰釉ならではの温かみや、重厚な表情が感じられ、油滴天目の魅力を最大限に引き出しています。
竹村繁男様の陶芸家としての歩みと今後
竹村様は高校時代から陶芸に強い関心を抱き、京都市立日吉丘高校で陶芸を学びました。卒業後は木村盛伸氏のもとで修行を重ね、昭和50年に第4回日本工芸会近畿支部展に初入選し、昭和55年に大日窯を開窯して独立。その後も釉薬の研究を続け、天目釉の深い色合いと自然灰釉の温かみを両立させた作品を生み出し続けています。
「油滴天目花器」は、伝統の技術を継承しつつ、現代の美意識に応える形で進化した作品です。
竹村繁男 略歴
昭和二十八年 : 京都府山科生まれ
昭和四十七年 : 京都市立日吉丘高校陶芸科卒業-木村盛伸先生に師事
昭和五十年 : 第四回日本工芸会近畿支部展 初入選
昭和五十三年 : 京都府工芸美術展 入選
昭和五十五年 : 独立し山科に大日窯を開窯
昭和六十三年 : 第三十五回日本伝統工芸展 入選
平成元年 : 「土の子会」結成
平成二年 : 第三十七回日本伝統工芸展 入選
平成八年 : 第二十五回日本伝統工芸近畿展 奨励賞
平成十年 : 第五十三回新匠工芸会展 入選
平成十三年 : 京都工芸美術作家協会展,京都「高島屋」にて個展
平成十四年 : 第四十九回日本伝統工芸展 入選
平成十五年 : 岡山高島屋画廊にて個展
平成十七年 : 横浜高島屋美術画廊にて個展
平成十八年 : 京都高島屋美術画廊にて個展
平成十九年 : 第三十六回日本伝統工芸近畿展 京都府教育委員会教育長賞
日本工芸会正会員認定
岡山高島屋画廊にて個展
平成二十年 : 日本工芸会陶芸部会正会員による第三十六回新作陶芸展 日本工芸会賞
平成二十一年 : 第五十六回日本伝統工芸展 入選
平成二十二年 : 第三十九回日本伝統工芸近畿展にて鑑査委員に就任
平成二十六~三十年年 : 日本伝統工芸近畿展 入選
令和元年~六年 : 日本伝統工芸近畿展 入選
令和五年 : 日本伝統工芸展 入選
令和六年 : 日本伝統工芸展 入選
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